山路晶プロ物語 後編

スケールの大きなプロゴルファーへ!
世界の舞台を目指して歩む山路晶のゴルフ道

高校卒業後、宍戸ヒルズカントリークラブへ研修生として入った山路晶。すぐにプロテストに合格すると思いきや、意外にもその壁は厚かった。しかし、2回目のプロテストに失敗した後、ファイナルQTでは34位となり、ツアープロへの道を自ら切り開いた。

第1章 ツアープロ・山路晶誕生!

ファイナルQTでつかんだ翌年の出場権

 17年春から研修生として宍戸ヒルズカントリークラブで過ごすことになった山路晶。ゴルフ場の研修生といえば、早朝にコースをラウンド、日中はキャディなどゴルフ場の仕事をこなし、夕方からラウンドや打ち込みを行うイメージがある。しかし、宍戸ヒルズCCでは研修生が山路を含めて2人しかいなかったこともあり、業務的な縛りは多くなかったという。
「朝7時半からクラブハウスの玄関に立ち、来場者の車からキャディバッグを取り出す仕事はありましたが、それ以外は特にありませんでした。キャディの仕事もそれほど多くはなかったですね」と振り返る。人にも恵まれ、コース近くに借りたアパートの大家さんや近所に住む方と仲良くなり、初めての一人暮らしでも心細くならず、充実した研修生生活を送っていた。ただ、肝心の最終プロテストでは実力を発揮できず、涙を飲むことに。
翌18年も最終プロテストまで進んだ山路。今度は4日間で5アンダーをマークしたが、レベルが高く、合格ラインに3打足りなかった。しかし、その1か月後に行われたファーストQTから快進撃が始まる。この試合をカットラインぎりぎりの20位タイで通過すると、セカンドQTを12位で通過。さらにサードQTも14位で通過。そして、ファイナルQTでは4日間を1アンダーでまとめて34位でフィニッシュ。翌年のツアー出場権を得たのだ。
「ずっとトーナメントに出場したいと思って頑張ってきたので、素直に嬉しかったですね。ただ、最初の頃は分からないことばかりで、まずはツアーに慣れることが大切かなと思っていました」。ツアーが始まれば、月曜もしくは火曜から日曜まで試合会場に滞在し、日曜の夜に移動。翌週の月曜からまた次の会場に滞在する。場合によっては自宅へは帰らず、会場から会場へとそのまま移動することもあり、それが何週も続いたりする。ツアープロに技術はもちろん、体力も求められるのは、そんなハードスケジュールでもコースではベストなパフォーマンスを見せなければいけないからだ。
そんな状況ながらもツアーデビューを飾った19年は35試合に出場し、賞金ランキング73位でフィニッシュ。翌年のシード権を獲得するまでには至らなかったが、どんなに成績が伴わなくても、目の前の1打に集中し、最後まであきらめずに戦ってきた山路の姿勢は間違っていなかった。11月に開催された最終プロテストの最終日に66をマークし、通算8アンダーの2位タイでついにプロゴルファーのライセンスを手にしたのだ。

第2章 森六ホールディングスとの出会い

20年のファイナルQTで8位に。21年のツアー出場権を得る

 ツアーデビューした19年、山路がポテンシャルの高さを証明した数字がある。250.85ヤードで6位に入ったドライビングディスタンスだ。飛距離が出る分、左右に曲がることも少なくなかったが、粗削りの中にセンスが見え隠れしていたのは間違いない。そんな山路を応援しようと立ち上がった企業があった。森六ホールディングスだ。
 360年の歴史を有する、日本最古参の化学専門企業グループである同社は、何か新しいことを始めようと模索したところ、若手プロゴルファーを支援していくことに。その際、候補として名前が挙がったのが山路だった。以来、現在まで所属契約を結ぶ間柄だが、山路には忘れられないシーンがあるという。
「契約した19年のミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンのときです。森六さんの栗田社長以下、大勢の社員さんが初日からコースへ来て応援してくれたんです」  聞けば、森六ホールディングスの代表取締役社長執行役員を務める栗田尚氏を筆頭に、社員の有志らが大型バスをチャーターして宮城県の利府ゴルフ倶楽部まではるばる駆け付けたというのだ。「応援が多いと気合が入りますし、ものすごく嬉しかったですね」。この試合では17位タイとまずまずの結果を残したが、その後の2試合で12位、12位タイと上位に入っただけに、山路に勇気と活力を与えたのだろう。
 年間を通してツアーに出場し、プロテストにも合格。山路に追い風が吹き始めたと思われた19年だったが、まさかのファーストQTに失敗し、20年は出場試合数が限られた。しかも、新型コロナウイルスの影響でシーズン序盤は軒並みどの大会も中止となり、山路はわずか4試合にしか出場できなかった。
2部ツアーのステップアップツアーに参戦しながら、山路はショートアイアンの精度を磨くことに時間を費やした。「ドライバーショットは飛んでいるのに、短いクラブで打つショットがピンに寄らないことが課題だったからです」。飛距離を活かすためにも、ショートゲームの向上は必須だったのだ。その努力が報われるチャンスが訪れる。
試合数の関係で20年と21年シーズンを統合することになり、特別措置として、20年度のQTを行うことになったのだ。まさに千載一遇のチャンスだったが、それを逃す山路ではない。ファイナルQTでは8位に入り、見事21年シーズンの出場権を得た。

第3章 ギネス世界記録に認定!

ハーフで2度のホールインワンを達成する

 20ー21年シーズンは38試合に出場した山路。賞金ランキングは55位だったものの、メルセデスランキングで47位に入り、念願の初シード獲得に成功した。トップテンにも7回入っていたが、シーズンのハイライトは、なんといってもリゾートトラストレディス(セントクリークゴルフクラブ/愛知県豊田市)だろう。この試合で山路はとんでもないことを達成したのだ。
 まずは2日目の3番パー3が舞台となる。ピンまで150ヤードを9番アイアンで会心のショットを放つと、ボールはピンに向かって一直線。グリーンに落ちると、転がってカップインしてしまったのだ。大喜びの山路だったが、ミラクルは終わらない。このハーフ2つ目のパー3となった7番を迎えたときのことだ。「グリーンの手前が池で、奥がバンカー。しかも、グリーンの幅が狭くなっているところにピンが立っていてかなり厳しい状況だなと思いました」。ピンまで175ヤードとかなり厳しい状況だったが、7番アイアンを手にすると思い切って振り抜いた。すると、またしてもボールはピンに向かって飛んで行く。まさか……。だれもがそう思いながら打球を見守ると、ボールはグリーンに落ちた後、静かにカップの中へと消えていく。ハーフどころか、1ラウンドで2度のホールインワンを達成したのは男女ツアーで初の快挙だった。
「ある意味怖かったですね。鳥肌が立ちました」とは、素直な感想だろう。惜しむらくは、最終日だと1ホール800万円の賞金がかかっていたが、2日目にはそれがなく、大会スポンサーからの賞金110万円に留まったことだろう。しかし、1ラウンドで2度のホールインワンという日本初の偉業がギネス世界記録として認定されたことは喜ばしく、山路にとって大きな勲章でもある。ただ、そんな幸運を手にしながらも、その試合で予選通過できなかったのは、なんとも山路らしい。

第4章 いつかは米女子ツアーに挑戦

見ている人が面白いと感じるプレーをしたい

 初シード選手として臨んだ22年、山路は思うようなゴルフをすることができないままシーズンを過ごし、メルセデスランキング110位に終わる。リランキングを気にすることもなく、年間を通じで試合に出場できるという安心感が、心のどこかに油断を招いたのかもしれない。それに加えて、ドライバーショットが左右に大きくブレていたこともスコアを伸ばし切れない理由だった。
 しかし、終わったことをいつまでも悔やんでいる山路ではない。「シーズンオフはドライバーショットの方向性を上げることに重点を置きました。そこが安定してくれば結果がついてくると思います」と、23年はリベンジに燃える。  残念ながら、22年度のファイナルQTが47位だったので、今シーズンは出場できる試合数が限られる。リランキングで上位にいくためにも早めに結果を出すことが前半戦の課題となる。それでもフェアウェイキープ率を見ると昨年までよりも大幅に数字が伸びていることもあり、山路の言葉を信じたいところだ。
 話は変わるが、黄金世代と呼ばれる同級生にも変化が生まれてきている。畑岡奈紗、渋野日向子に続き、今季から勝みなみも米女子ツアーを拠点にするようになった。さらには、原英莉花も今年の秋にはQスクールを受験する予定だという。世界のトッププロが集まる米女子ツアーだが、山路は海外ツアーについてどのように考えているのだろうか。
「将来的な目標として、米女子ツアーで戦ってみたい気持ちはあります」と意外な答えが返ってきた。ジュニア時代に米国での試合経験はあるが、楽しい思い出しか残っていないという。 「私の場合、食事にも困らず、どこでも寝れますし、飛距離も出る方だと思います。周りからも米国の方が向いているんじゃないかと言われるんです」。英会話はできないが、勢いとノリでクリアするつもりだ。小さいことにこだわらない性格は確かに米国向きだろう。もちろん、山路自身もそれだけで通じるほど甘い世界だとは思っていない。
「ショートゲームをもっと磨く必要がありますよね」と力を込める。日本よりもグリーン周りのアプローチやパットの難易度が高いだけに、対応できる技術を身につけたいのだ。国内ツアーでの結果に関係なく、Qスクールを数年のうちに受けたい気持ちがあるというが、まずはショートゲームのレベルを上げてからの話だろう。
 そんな山路が現在心がけているのは、いかに自分が納得のできるショットを放つことだという。「狙ったところに狙った球筋で打てるかどうか、ある意味スコアよりも1打への納得感を重視したいですね」と語る。その納得感が数多く得られた時、優勝に大きく近づくのだろう。何をやるか分からないところが山路の長所でもある。「見ている人が楽しめるようなプレーをしたいし、面白いと感じるプレーを見せたいですね」。そのような発言をする選手は少ないが、果たして山路がどれだけ楽しませてくれるのか、今後も彼女のプレーから目が離せない。